2009年03月26日
50マイルの壁と罪
「そろそろ出ようか?」
「えー、まだ時間は大丈夫だよー。もう1杯飲もうよー」
「家に彼氏が待ってるんだろう?。早く帰れよ。」
「だって、今日も仕事で遅くなるって言ってたもん。」
「彼氏はキミとの将来のために夜遅くまで働いているんだろう。」
「でも、一人で家にいても寂しいだけだもん。仕事仕事ばっかりでほったらかしだし」
「そんな事を言ったら、頑張ってる彼氏も悲しむぞ。さあ、駅まで送るよ。」
「あ、雨が降りだした。すごいねー、天気予報当ってる。」
そう、あの日の夜もこんな冷たい雨だった…。
男は当時24才。どこにでもいる、普通の男であった。
男が大学在学中に起きた、突然の父親の死。
そして男は自ら進んで大学を中退し、2年間都会での厳しい修行を終えて、実家の仕事を継いだ。
それから、付き合ってた彼女との将来を夢見て、汗水たらして夜遅くまで懸命に働いていた。
少しでも早く一人前の大人として、彼女に、そして彼女の両親に認められたかった。
彼女は就職後、地元を離れて一人暮らしをしていた。
その距離わずか50マイル。夜中に車をとばせば1時間少々で彼女の元にたどり着く。
今すぐにでも彼女の笑顔が見たい、そしてその華奢な体をきつく抱きしめたい。
しかし、若くして家業を継いだ男にとって、仕事に対しての責任感が大きすぎた。
「この初めての大きな仕事さえ無事終わらせれば、オレは一人前の大人になれる」
男はそう信じ、ひたすら仕事に没頭した。
「そうだ、来月は彼女の休みに合わせて、どこか遠くまで旅行に行こう」
最近は、休日の間を縫って短い時間しか会うことができなかったから、その罪滅ぼしだ。
そして男は頑張った結果、人生初めての大きな仕事を無事終える事ができた。
よし、これで胸を張って、彼女に会いに行くことができる。
小雨の降る夜、50マイルの時間と心の隙間を埋めるべく、男は車を南東へ走らせた。
そして彼女を驚かせるため、あえて黙っておいた。
途中、花束と彼女の好きなチーズケーキをお土産に買って。
ピンポーン。ガチャッ。
おそるおそる玄関のドアを開けた彼女の顔は、嬉しさではなく愕然とした表情であった。
1ヶ月ぶりの再会なのに、なぜそんな悲しい顔をするんだ?。
男は一瞬考えたが、なぜか続く言葉が出なかった。
しかし、その謎はすぐに解けた。
彼女は無言で男を部屋の中に招きいれ、男も無言のまま奥に進んだ。
そして、部屋の中には、とまどいを隠し切れない表情をした、別の男が正座していた。
そう、その別の男は、男にとって中学生時からの大事な友人であった。
「ごめんなさい…」彼女は声を押し殺しながら、すすり泣きを始めた。
「すまん…」友人は、絞り上げるようなかすれ声で一言だけ発した。
男は全てを悟った。
しかし、男は彼女と友人に対して、一言も責める事はなかった。
そして、「分かった…」と一言残して、彼女の部屋を立ち去った。
ドアが閉まった瞬間、堰を切ったように彼女は床に伏せて泣き崩れた。
仕事に没頭してほったらかしにしたため、彼女に寂しい思いをさせてしまった…。
全ての責任が自分にあるかのように、男は後悔の念と失望感を全て心の中に閉まった。
そして50マイルの道のりを、大音量のCDとともに北西に向かい一人帰っていった。
それからの男は、全てを忘れさろうとするが如く、ますます仕事に没頭した。
結果、父親時からの常連に加え、多くの新規顧客がつき、男は立派な経営者となった。
そして新しい彼女ができ、順風満帆な人生を送り始めた。
そんなある日、突然彼女を奪った友人が店を訪ねてきた。
「すまない…」友人は深々と頭を下げた後、さらに土間に土下座して謝罪をした。
「やめてくれ、そんな事」男は友人の腕をとり立ち上がらせ、椅子に座るように勧めた。
「…実はあれから1年ももたずに、俺も彼女と別れたんだ…」
友人はかすれるような小声で、コーヒーを注ぐ男の背中に話しかけた。
友人も、次々と上司が退社したため、責任のある仕事を任されるようになった。
したがって仕事に没頭せざるを得なくなり、彼女との時間が取れなくなった。
そして、あの時と同じように、彼女の部屋に新しい別の男がいた。
その別の男もやはり、彼にとって大事な友人の一人であった。
「まさに因果応報だな…」友人は寂しそうにつぶやいた。
そしてブラックを一口飲み、「ちょっと濃いな、これ」と顔をしかめた。
男は揶揄する事も責める事もなく、ペンを走らせながらじっと黙って友人の話を聞いていた。
「あの時のお前の気持ちがよく分かったよ…」と、友人はしみじみと語った。
彼もまた、別の男を作った彼女を責めることができなかったらしい。
「でも、あの時俺の事を責めなかったから、こうしてお前に会いに行く勇気が生まれたんだ。ありがとう」
友人は素直に頭を下げた。男は特に何も言わず、仕事を続けていた。
「しかし、どうしたら仕事も彼女も順調に続けることができるんだろうな?」
ふっきれたように、友人は軽く笑いながら男に尋ねた。
「きっと、お前らしく自然のままにいるのが一番いいんじゃないか?、そういう彼女を見つけろよ。」
男も調子を合わせながらも、そのままペンを走らせていた。
友人はそう宣言するかのようにすっと立ち上がって、「じゃあな、また会おう」。
しかし、その後友人と会うことはなかった。
男はその後も家業に励み、普通に結婚して3人の子供と共に幸せな家庭を築いている。
そして、友人はどうなったかは分からない。
今もきっと、50マイルの罪を背負い、あの時の誓いを未だ守っているのだろう…。そう思いたい。
「えー、まだ時間は大丈夫だよー。もう1杯飲もうよー」
「家に彼氏が待ってるんだろう?。早く帰れよ。」
「だって、今日も仕事で遅くなるって言ってたもん。」
「彼氏はキミとの将来のために夜遅くまで働いているんだろう。」
「でも、一人で家にいても寂しいだけだもん。仕事仕事ばっかりでほったらかしだし」
「そんな事を言ったら、頑張ってる彼氏も悲しむぞ。さあ、駅まで送るよ。」
「あ、雨が降りだした。すごいねー、天気予報当ってる。」
そう、あの日の夜もこんな冷たい雨だった…。
男は当時24才。どこにでもいる、普通の男であった。
男が大学在学中に起きた、突然の父親の死。
そして男は自ら進んで大学を中退し、2年間都会での厳しい修行を終えて、実家の仕事を継いだ。
それから、付き合ってた彼女との将来を夢見て、汗水たらして夜遅くまで懸命に働いていた。
少しでも早く一人前の大人として、彼女に、そして彼女の両親に認められたかった。
「今週もまた会えないの?」
「ごめん、今週も仕事がたて込んでいるんだ」
「ごめん、今週も仕事がたて込んでいるんだ」
彼女は就職後、地元を離れて一人暮らしをしていた。
その距離わずか50マイル。夜中に車をとばせば1時間少々で彼女の元にたどり着く。
今すぐにでも彼女の笑顔が見たい、そしてその華奢な体をきつく抱きしめたい。
しかし、若くして家業を継いだ男にとって、仕事に対しての責任感が大きすぎた。
「この初めての大きな仕事さえ無事終わらせれば、オレは一人前の大人になれる」
男はそう信じ、ひたすら仕事に没頭した。
「そうだ、来月は彼女の休みに合わせて、どこか遠くまで旅行に行こう」
最近は、休日の間を縫って短い時間しか会うことができなかったから、その罪滅ぼしだ。
そして男は頑張った結果、人生初めての大きな仕事を無事終える事ができた。
よし、これで胸を張って、彼女に会いに行くことができる。
小雨の降る夜、50マイルの時間と心の隙間を埋めるべく、男は車を南東へ走らせた。
そして彼女を驚かせるため、あえて黙っておいた。
途中、花束と彼女の好きなチーズケーキをお土産に買って。
ピンポーン。ガチャッ。
おそるおそる玄関のドアを開けた彼女の顔は、嬉しさではなく愕然とした表情であった。
1ヶ月ぶりの再会なのに、なぜそんな悲しい顔をするんだ?。
男は一瞬考えたが、なぜか続く言葉が出なかった。
しかし、その謎はすぐに解けた。
彼女は無言で男を部屋の中に招きいれ、男も無言のまま奥に進んだ。
そして、部屋の中には、とまどいを隠し切れない表情をした、別の男が正座していた。
そう、その別の男は、男にとって中学生時からの大事な友人であった。
「ごめんなさい…」彼女は声を押し殺しながら、すすり泣きを始めた。
「すまん…」友人は、絞り上げるようなかすれ声で一言だけ発した。
男は全てを悟った。
しかし、男は彼女と友人に対して、一言も責める事はなかった。
そして、「分かった…」と一言残して、彼女の部屋を立ち去った。
ドアが閉まった瞬間、堰を切ったように彼女は床に伏せて泣き崩れた。
仕事に没頭してほったらかしにしたため、彼女に寂しい思いをさせてしまった…。
全ての責任が自分にあるかのように、男は後悔の念と失望感を全て心の中に閉まった。
そして50マイルの道のりを、大音量のCDとともに北西に向かい一人帰っていった。
それからの男は、全てを忘れさろうとするが如く、ますます仕事に没頭した。
結果、父親時からの常連に加え、多くの新規顧客がつき、男は立派な経営者となった。
そして新しい彼女ができ、順風満帆な人生を送り始めた。
そんなある日、突然彼女を奪った友人が店を訪ねてきた。
「すまない…」友人は深々と頭を下げた後、さらに土間に土下座して謝罪をした。
「やめてくれ、そんな事」男は友人の腕をとり立ち上がらせ、椅子に座るように勧めた。
「…実はあれから1年ももたずに、俺も彼女と別れたんだ…」
友人はかすれるような小声で、コーヒーを注ぐ男の背中に話しかけた。
友人も、次々と上司が退社したため、責任のある仕事を任されるようになった。
したがって仕事に没頭せざるを得なくなり、彼女との時間が取れなくなった。
そして、あの時と同じように、彼女の部屋に新しい別の男がいた。
その別の男もやはり、彼にとって大事な友人の一人であった。
「まさに因果応報だな…」友人は寂しそうにつぶやいた。
そしてブラックを一口飲み、「ちょっと濃いな、これ」と顔をしかめた。
男は揶揄する事も責める事もなく、ペンを走らせながらじっと黙って友人の話を聞いていた。
「あの時のお前の気持ちがよく分かったよ…」と、友人はしみじみと語った。
彼もまた、別の男を作った彼女を責めることができなかったらしい。
「でも、あの時俺の事を責めなかったから、こうしてお前に会いに行く勇気が生まれたんだ。ありがとう」
友人は素直に頭を下げた。男は特に何も言わず、仕事を続けていた。
「しかし、どうしたら仕事も彼女も順調に続けることができるんだろうな?」
ふっきれたように、友人は軽く笑いながら男に尋ねた。
「きっと、お前らしく自然のままにいるのが一番いいんじゃないか?、そういう彼女を見つけろよ。」
男も調子を合わせながらも、そのままペンを走らせていた。
「でも、決めたよ。もう決して、彼氏のいる女に走る事ようなマネはしない」
友人はそう宣言するかのようにすっと立ち上がって、「じゃあな、また会おう」。
しかし、その後友人と会うことはなかった。
男はその後も家業に励み、普通に結婚して3人の子供と共に幸せな家庭を築いている。
そして、友人はどうなったかは分からない。
今もきっと、50マイルの罪を背負い、あの時の誓いを未だ守っているのだろう…。そう思いたい。
Posted by まんねん at
23:03
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