2010年02月06日
あるバーでの物語
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から、マスターがいつもどおり礼儀正しい挨拶でお客を迎える。
ここは、とある隠れ家的なお洒落なバー。
「今日は一段と寒いですねえ。あ、お願いします」
フレデリック(仮)はコートを店員に預けて、いつもの奥から2番目の席に座る。
「今日はお一人ですか?」
「いや、後から彼女が来ます」
フレデリック(仮)は、差し出された温かいお絞りで手を拭く。
微かに香る石鹸の匂いが、この店の心憎い気配りだ。
「どういたしましょうか?」
「いつものボルドーをお願いします」
「かしこまりました」

一口含んで、メルローの芳醇でまろやかな香りが鼻腔を抜けていく余韻を楽しむ。
サンテミリオンの珠玉の逸品だ、心して呑まないとワインに申し訳ない。
しかし、今晩のフレデリック(仮)は、どことなく落ち着かなかった。
実は彼には今晩、一世一代の大仕事が待っていた。
そしてスーツのポケットの中に手を入れ、エンゲージリングケースのビロードの感触を確かめる。
給料3か月分の勲章が、いつもはのんびりとした彼の心を奮い立たせようとしていた。
しかし、遅いなあ…。

仕事で遅くなるとは前もって聞いていたけど、早く来ないかなあ…。
彼の逸る気持ちを、サロンから聴こえてくるピアノの生演奏が、唯一落ち着かせてくれていた。
その時、ブブン、ブブン、ブブン、と携帯のバイブレーダーが震える。彼女からのメールだ。
そうか、忙しいんだね。しょうがないか、もう少し待とう。
パシッと携帯を閉じ、グラスを一気に空ける。
「マスター、もう一杯。そして、なんか陽気な曲をお願いしていいですか?」
「かしこまりました」

アップテンポのジャズの音色が、店内の隅々まで広がっていく。
どこかで聴いた事がある曲だが、名前が思い出せない。でも、そんな事は関係ない。
一曲弾き終わった時、他の客に邪魔にならないよう、軽い賞賛と拍手をピアニストに送る。
いい曲だった。高揚感から再び心が奮いあがった時、玄関のドアが開いた。
ゆっくりと、フレデリック(仮)は振り向いた。

「待った?、ごめんなさい。」
いや、ご苦労様。
忙しかっただろうに、来てくれただけでホントに嬉しいよ。
「寒かっただろう、ゆっくり呑もうか」
仕事で顔が疲れているだろうに、いつもより5割増しできれいに見えたのはなぜか分からない。
きっと、名前が思い出せないあの曲のおかげで、心が高揚したせいだろう。
あとは、自分の気持ちの全てを、このリングとともに彼女に渡すだけだ。
そして、とあるバーの夜は更けていく…。
カウンターの奥から、マスターがいつもどおり礼儀正しい挨拶でお客を迎える。
ここは、とある隠れ家的なお洒落なバー。
「今日は一段と寒いですねえ。あ、お願いします」
フレデリック(仮)はコートを店員に預けて、いつもの奥から2番目の席に座る。
「今日はお一人ですか?」
「いや、後から彼女が来ます」
フレデリック(仮)は、差し出された温かいお絞りで手を拭く。
微かに香る石鹸の匂いが、この店の心憎い気配りだ。
「どういたしましょうか?」
「いつものボルドーをお願いします」
「かしこまりました」

一口含んで、メルローの芳醇でまろやかな香りが鼻腔を抜けていく余韻を楽しむ。
サンテミリオンの珠玉の逸品だ、心して呑まないとワインに申し訳ない。
しかし、今晩のフレデリック(仮)は、どことなく落ち着かなかった。
実は彼には今晩、一世一代の大仕事が待っていた。
”今日こそ、彼女にプロポーズするんだ”
そしてスーツのポケットの中に手を入れ、エンゲージリングケースのビロードの感触を確かめる。
給料3か月分の勲章が、いつもはのんびりとした彼の心を奮い立たせようとしていた。
しかし、遅いなあ…。

仕事で遅くなるとは前もって聞いていたけど、早く来ないかなあ…。
彼の逸る気持ちを、サロンから聴こえてくるピアノの生演奏が、唯一落ち着かせてくれていた。
その時、ブブン、ブブン、ブブン、と携帯のバイブレーダーが震える。彼女からのメールだ。
”あとちょっとで仕事が終わるから、もう少し待って”
そうか、忙しいんだね。しょうがないか、もう少し待とう。
パシッと携帯を閉じ、グラスを一気に空ける。
「マスター、もう一杯。そして、なんか陽気な曲をお願いしていいですか?」
「かしこまりました」

アップテンポのジャズの音色が、店内の隅々まで広がっていく。
どこかで聴いた事がある曲だが、名前が思い出せない。でも、そんな事は関係ない。
一曲弾き終わった時、他の客に邪魔にならないよう、軽い賞賛と拍手をピアニストに送る。
いい曲だった。高揚感から再び心が奮いあがった時、玄関のドアが開いた。
ゆっくりと、フレデリック(仮)は振り向いた。

「待った?、ごめんなさい。」
いや、ご苦労様。
忙しかっただろうに、来てくれただけでホントに嬉しいよ。
「寒かっただろう、ゆっくり呑もうか」
仕事で顔が疲れているだろうに、いつもより5割増しできれいに見えたのはなぜか分からない。
きっと、名前が思い出せないあの曲のおかげで、心が高揚したせいだろう。
あとは、自分の気持ちの全てを、このリングとともに彼女に渡すだけだ。
「乾杯」
そして、とあるバーの夜は更けていく…。
Posted by まんねん at 01:59│Comments(2)
この記事へのコメント
物語のタイトルは
「わんタ゛フルDay」?
「わんタ゛フルDay」?
Posted by ペーター at 2010年02月06日 08:56
それもあり。というか、本人も考えてないで書いたから。
Posted by まんねん
at 2010年02月08日 18:25
