蒼月と星の欠片
日が沈み、漆黒の闇に包まれる直前
ほんのわずかな時間だけだが
西の空が紺青に染まる事がある
昼でもない
夜でもない
刹那的で半端な時間だけど
仕事で疲れきった体と
乾ききった心の隙間を潤してくれる
そんな緩い空の色を求めている
”人生の壁”
三度目の干支を迎えた今
真正面からぶち当たっている最中
今まで、山や谷を登り下りつつ
それなりに大きな苦難も乗り越えてきた
今の仕事もそう
新人時代から怒鳴られ、蹴られ、殴られ
常人では耐えられない罵倒も受けた
ただ、長年の苦労と努力が報われたのか
今では全般的に信頼を受けるようになり
難しい仕事も問題なく順調にこなしている
正直、大分県、いや九州内の同業で同じ立場の
どの人間より仕事はできる自信と自負はある
そう思えるのは、多少は成長したせいかもしれない
でも、ただそれだけ
30代になり、無難に仕事をこなせるようになった
たぶん、これから先も特に変わらないだろう
ただ、行先はこのまま平坦な道しかないのだろうか
たぶん、今の仕事には向いていると思う
けれども、不景気のこのご時世
ここ何年は辛い仕事が多過ぎた
自分の判断次第で、もしかしたら
見知らぬ人たちを路頭に迷わすかもしれない
それも何十人、いや家族を含めれば何百人か
そう思うと、何日も夜もまともに眠れず
悩んで、悩んで、考え過ぎるあまり
吐き気をもよおし、トイレに駆け込む事も多々あった
あくまでも仕事
その原因が自分にあるのではないのは重々分かっている
しかも一社員につき、責任のない立場であるのも分かってる
しかし、自分がやらなくても、誰かがやらなければならない
割り切らなければ、できない仕事というのも分かってる
けれども、絞首台の上で縄に首をかけている死刑囚の踏台を
蹴落とすための準備をしている気持ちになる時がたまにある
正直、辛い
たまの度重なる激務で体を壊す前に
心が砕け散るのが先かもしれない
けれども、この状況から逃げ出そうと思わなかった
真剣に転職を考えた事も一度もなかった
もしかしたら、天職なのかもしれない
そう自分に言い聞かせ、働き続けた13年間
けれども、いつかはこの舞台から
飛び出さねばならない日が来るのだろう
自分が、舞台の中で主役を張る人間でも
輝く存在でないのも十分分かっている
与えられた役を、ただ黙々と演じるしかできない
でも、その場から脱却したい自分がいるのも事実
蒼い満月なぞおこがましく
下弦の月ですら想像つかない
天に無数にある、星の欠片のひとつで十分
しかし、今までのように
緩い紺青の夜空を求める限り
微かに輝く星にすらなれないのだろう
悩める36才