まんねんひとコマ~恐怖~
小雨が降る12月中旬の、夜10時前のこと
玲子(仮)は駅からの帰り道を、急いで歩いていた
また今日も、帰りが遅くなってしまったな…
残業続きの毎日だけど、年末だからしょうがない
「カツ、カツ、カツ、カツ…」
寒い…、夜中になったら雪に変わるかもしれないな
かじかむ手をさすりながら、ハーっと息を吹きかける
手袋を持ってくればよかったと、ちょっと後悔していた
早く家に帰って、お風呂にゆっくり浸かってあったまろう
「コツ、コツ、コツ、コツ…」
車1台がやっと通るような、線路ガード下の薄暗く狭い路地
帰り道を急ぐ玲子(仮)は、ふと異質感のある音に気がついた
自分自身のヒールの足音とは、違う靴音がシンクロしている
コンクリートに叩きつける、甲高いヒールの音と違う低い音
”もしかして、後ろから誰かついてきている?”
いや、まさかね、自意識過剰過ぎかな
でもやっぱり怖い…、怖いけど、確認しないと
ふと立ち止まって、スーっと深呼吸したあと
思い切って、玲子(仮)は後ろを振り返ってみた
”誰もいない…、よかった…”
薄暗い路地にうっすらと照らされた街灯の下には
人影らしきものは、なにも見えなかった
小雨は降り続き、さらに気温が下がったせいか
周囲はうっすらと霧に囲まれ始めた
「カツ、カツ、カツ、カツ…」
単なる気のせいだったのね
さ、あと10分で家に帰り着くわ、気を取り直して帰ろう
しかし、玲子(仮)が再び歩き始めたと同時に
再び、革靴のような低い靴音が聞こえてきた
「コツ、コツ、コツ、コツ…」
間違いない
後ろから誰かついて来ている…
絶対、気のせいじゃないわ
恐怖に感じ始めた玲子(仮)は、すぐに足を早めた
「カツカツカツカツカツカツ…」
速いテンポのヒールの足音とシンクロするように
得体の知れぬ低い靴音が同じ速度で周りに響く
あと少しすれば、薄暗い田園地帯を抜けれる
玲子(仮)は恐怖と戦いながら早足で急いだ
「コツコツコツコツコツコツ…」
それでも、低い靴音は同じリズムでついてくる
”怖い…、怖い…”
”誰か…、助けて…”
恐怖に負けそうになりかけた、絶望的な瞬間
目の先には、かすかにお店らしき灯りが見えた
ついに玲子(仮)は、傘を投げ捨て走り出した
小雨が降りしきる中、玲子(仮)はヒールのまま全力で走った
息が切れそうになりつつ、なんとか無事灯りの元にたどり着いた
灯りの元は、居酒屋のようなこじんまりとした店だった
「すみませーん、助けてください」
と、ドアを開けようとしたのに、開かない!?
必死でドアを押すものの、鍵がかかっているの?
なんで?、なんで開かないの?
「お願いー!、開けてくださいー!」
ダン!ダン!ダン!ダン!
必死でドアを叩きつつ、全力でドアを押す
それでも、中から反応はない
「お願い、開けてー!」
悲痛にも近い、絞り上げるような声で叫び続ける玲子(仮)
必死の思いでドアを叩き続け、何度も押してみた
それでも、ドアは開かなかった
愕然と崩れ去るようにドアの前で座る玲子(仮)
完全に動転した玲子(仮)は気がつかなかったようだ
後ろから…
迫りくる…
男の影を…
「そのドア、引いて開けるんだよ」
終了~
さ、そろそろ仕事を終えて、メシでも食って帰るかな